企業の採用選考過程において、ほとんどのケースで適性検査を実施しています。適性検査にはいくつか種類があるものの、いずれの検査であっても、事前にしっかりと対策をしておくことが大切です。
しかしながら、転職活動を行っている方の中には、「大事なのは面接の結果であって適性検査は適当で良い」「対策すべきなのは分かるけど、優先度は低い」と考えている方や、「どれくらいまで対策しておけばよいか分からない」と悩んでいる方がいらっしゃいます。
そこで今回の記事では、適性検査で意識しておきたい「足切り」の存在と対策方法について、総合コンサルファームへの転職経験を有する東証一部上場企業の元人事担当者が解説いたします。
筆者の情報
この記事で得られる情報
- 適性検査の結果による「足切り」が存在すること
- 適性検査結果を企業がどのように利用するか
- 適性検査の対策方法
適性検査で意識すべき「足切り」の存在
まずはじめに理解すべきことは、適性検査の結果を利用した「足切り」が存在するということです。
一定の基準に達しない者を、予備試験などにより切り捨てること。
出典:デジタル大辞泉(小学館)
「足切り」の存在に加えて、応募者にとって最もクリティカルな適性検査結果の使われ方が、この「足切り」利用だということも理解しておきましょう。
「適性検査の対策をしていなかったがために、面接までたどりつけなかった」という悲惨な目にあわないよう、後述する「足切り」の重要性をしっかり理解しましょう。詳細は、「企業は適性検査の結果をどのように活用するか」をご確認ください。
そもそも適性検査とは何か
適性検査とは、応募者の能力や資質を測定するテストのことを指します。学校受験における筆記試験に近いイメージを持っていただければ良いでしょう。
企業によって、適性検査で行う内容が異なりますが、多くのケースでは基礎的な能力を測る「能力検査」と、応募者のパーソナリティを把握するための「性格検査」の2部構成となっています。
能力検査
能力検査は、企業で働くうえで一般的に求められる能力である論理的思考力、基礎学力、一般常識などを測ります。
ポピュラーな出題パターンでは、①言語問題(国語に近い)、②非言語問題(数学に近い)、③語学力(英語に近い)の3要素で構成されます。
性格検査
性格検査では、仕事への取り組み方や人間性などについて、多角的で大量の質問を行ったうえで、どのような仕事・組織に向いていそうか、といったパーソナリティ部分を測ります。
代表的な適性検査の種類
企業によって、実施する適性検査の内容は異なります。企業が独自で問題を作成しているケースもありますが、多くのケースでは、既成の枠組みを利用して実施しています。
ここでは、代表的な適性検査の名前をいくつかご紹介します。
- SPI3
- 玉手箱
- CAB・GAB
- V-CAT
- Cubic
企業は適性検査の結果をどのように活用するか
活用の仕方は企業によって様々ですが、大きく2パターンが想定されます。それぞれ、詳しく解説していきましょう。
- 選考序盤において、足切りに活用する
- 選考中盤・終盤において、面接評価の補足情報として活用する
選考序盤において、足切りに活用するケース
数千~数万もの応募がある企業において、全ての応募書類や関連情報に目を通すことは容易ではありません。そのため、様々な基準を予め設定しておき、足切りを行います。
最も分かりやすく、よく使われる基準として学歴/職歴があります。いわゆる「学歴/職歴フィルター」です。企業によっては、このフィルターを用いて、そもそも会社説明会などの採用イベントに参加する候補者を選別していることもあります。
次に、この学歴/職歴フィルターをくぐり抜けた先に待ち構えている基準が適性検査結果で、能力検査の数値が一定のラインを超えていない場合には不合格となってしまいます。さらには、性格検査の結果についても、個々の企業で重視している特性項目を設定しているケースがあり、そこで特定の傾向がみられる応募者を不合格にすることがあります
選考中盤・終盤において、面接評価の補足情報として活用するケース
選考が進んでいくと、複数回の面接が待ち構えています。面接においては、当然、書類からは読み取れない部分を探ろうと、面接官は色々な角度から質問を投げかけてくるでしょう。そういう意味では、適性検査の数値はあまり関係がないように感じるかも知れません。
しかしながら、限られた面接の時間の中では確認できなかったことや、候補者がついた嘘(あるいは盛っているエピソード)を見抜くための補足情報として、適性検査の結果が役に立ちます。
また、複数の候補者が存在する場合で、面接による評価だけでは甲乙つけがたい場面においては、適性検査の結果を含めた総合評価で合否を決めることもあるでしょう。
「足切り」活用の重要性
さて、適性検査結果の2つの活用方法についてご説明しました。このうち、応募者にとって最もクリティカルな適性検査結果の使われ方をするのが、「足切り」利用だということを、意識する必要があります。
適性検査の能力検査部分の結果は、具体的な数値で企業側に知らされる仕組みになっています。その数値に対して、例えば49点未満は不合格というように企業ごとに独自の基準を設けています。
ここで、以下2人のケース考えてみましょう。
- Aさん:面接が大の得意。この企業へ入社する熱意はとても強い。人柄に自信があるため、適性検査の準備を怠った。
- Bさん:面接は得意でも苦手でもない。適性検査の準備はしっかり実施した。
候補者 | 適性検査結果 | 面接での評価 |
Aさん | 49点 | 「評価なし」 49点未満の候補者は、面接前の適性検査時点で不合格であり、いくらポテンシャルを秘めていようと、それをはかるステージにすら立つことができなかった。 |
Bさん | 65点 | 「3次面接までの評価は並。4次面接で、▲▲部長の目にとまり、活躍できそうなイメージを持てたため、是非採用したい」 50点の以上候補者は、面接に進めることになる。以降の面接においては適性検査結果以外のことがらも評価対象となり、そこでは65点以上の評価を受ける可能性がある。 |
上記Aさんのように、どんなに熱意を持っていても、どんなに面接が得意でも、適性検査で足切りされてしまえば、企業の人間と会話する機会を持つことなく、お祈りとなってしまうのです。
適性検査の対策方法
適性検査の対策を行う必要性は理解いただけたと思います。ここでは、どれくらいまで、どのように対策を行えばよいのかについてご説明いたします。
対策はどのレベルまで行うべきか
足切りをする基準は企業によって違いますし、重視する項目も異なります。また、各企業から足切りの基準値等が公表されているわけでもありません。そのため、獲得すべき得点も目指す企業によって異なると言わざるを得ません。
そこで後段では、行うべき対策のうち必須部分と任意部分を分けて紹介しますので、各人が対策に費やせる時間量を見極めたうえで、悔いのないように適性検査に臨むことをお勧めします。
対策はどのように行うべきか
対策は具体的に、以下5つから成ります。それぞれ、詳しく解説していきましょう。なお、コストと時間をかけずに実施できる、最低限の対策を「必須」として記載しています。
実施順 | 必須/任意 | 対策内容 |
① | 必須 | 適性検査の種類と受験方法を確認する |
② | 必須 | 適性検査の実施タイミングを確認する |
③ | 必須 | 適性検査の問題構成を理解する |
④ | 任意 | 過去問・対策本を利用して、すべての問題の解き方を理解する |
⑤ | 任意 | 過去問・対策本を利用して、問題を解くスピードを上げる |
①適性検査の種類と受験方法を確認する(必須)
一番最初に行うべきは、適性検査の種類を把握することです。「代表的な適性検査の種類」の箇所でも触れましたが、適性検査にはいくつかの種類があります。加えて、同じ種類の中でも、受験方法(紙/Web/テストセンター)がいくつか存在します。
一口に適性検査といっても、出題形式や内容、必要なもの(電卓、メモ、ボールペン等)が異なりますので、これから対策すべき相手を明確にしておきましょう。
人材紹介エージェントを利用している場合には、担当者に確認すればすぐにわかると思います。直接応募等の場合にはネットで検索するか、あるいは有名な企業であれば業界/企業研究の参考書に載っていることもあります。
②適性検査の実施タイミングを確認する(必須)
次に、適性検査が選考フロー内のどのタイミングで実施されるのかを確認しましょう。企業によって、応募時に実施したり、書類通過後に実施したり、最終面接前に実施したりと様々です。
実施タイミング次第で、どれだけの時間を対策に費やせるのか明確にしておきましょう。①と同様の方法で、確認が可能です。
③適性検査の問題構成を理解する(必須)
適性検査内で用いる知識は、学生時代に培った基礎的な学力の部分が大半ではありますが、日常生活において使わない知識も多くあります。
そのため、当該適性検査における問題構成を確認し、どういった問題が出るのかを必要となる知識・テーマのレベルで確認しておきましょう。
事前に適性検査で必要となる知識の範囲を知っておくことで、本番で焦らずに取り組めるようになるでしょう。
たとえば、「この適性検査では、確率、場合の数、二語の関係、英語の文型を用いて解く問題が出る」といったレベルです。
適性検査の名前でネット検索、あるいは専用の参考書を購入することで、問題の構成を確認できます。
④過去問・対策本を利用して、すべての問題の解き方を理解する(任意)
③で確認した、それぞれの問題に対し、自身の今の知識で解けるかどうかを確認しましょう。また、解けない問題については、解き方を理解しましょう。
具体的な方法としては、専用の参考書を1冊購入し、ローラー的に全問解けるようになるまで繰り返し、ひたすら解くことです。基本的には、解き方さえ分かってしまえば、解ける問題しか出ませんので、参考書を2~3周すれば、全問解くことは可能です。
お金をかけたくない場合には、ネット上に過去問が掲載されていたり、また無料で問題を公開しているアプリなどもありますので、活用すると良いでしょう。
⑤過去問・対策本を利用して、問題を解くスピードを上げる(任意)
前述の通り、基本的には「解き方さえ分かってしまえば、解ける問題しか出ません」が、制限時間が存在します。この制限時間が、なかなかに厳しいため、焦ってしまったり、解き方をど忘れしてしまうなどで、十分に力が発揮できないケースが散見されます。
繰り返し、時間を測りながら参考書を用いて反復し、効率のよい解き方を身に着けておきましょう。
場合によっては捨てるべき問題がどれなのかを、おさえておく必要があるかもしれません。
小手先のテクニック
本質的な対策・準備とは異なりますが、分からない問題でも何らか回答することを心掛けましょう。
適性検査は、選択式のものが多くありますので、分からなくとも消去法で絞るなどして、何らかの回答をするようにしましょう。
性格検査は対策すべきか
ここまで、能力検査の対策についてのみご説明しました。では、性格検査の対策はどのように実施すべきでしょうか。
結論、特段の対策は不要です。
性格検査は、能力値を測るものではありませんから、原則はありのまま正直に答えることで問題ありません。仮に、企業が求める人材要件に寄せながら回答したとしても、後続の面接等でボロが出てしまいます。
「ありのまま正直に答える」ことが前提となりますが、適性検査の種類ごとの、性格検査の過去問等も出回っていますので、気になる方は目を通しておくことも可能です。
まとめ
今回の記事では、適性検査で意識しておきたい「足切り」の存在と対策方法を紹介しました。事前対策の重要性を理解し、正しく対策を実施していただければと思います。
- 企業は、適性検査の結果を用いて「足切り」を行っている。
- わずかでも、企業が設ける足切りラインに届かない場合には、どんなにポテンシャルを秘めている候補者であろうと、即時不合格となる。
- 「足切り」されないために、事前の対策を行うべきである。
- 対策にあまり時間を費やせない場合には、紹介した必須項目だけでも、最低限実施しておくことをお勧めする。