ここ数年、20~30代を中心に退職代行サービスを利用する方が増えています。このサービスは、個人が勤務先企業を退職するための諸手続きを、代行業者が個人(サービス利用者)と勤務先企業との間に立って代わりに行うというものです。
利用者の増加について、ニュースや新聞等で取り上げられていますが、それを理由に安易にサービスの利用を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回のコラムでは、退職代行サービスを利用して後悔しないために知っておくべき3つのデメリットについて、東証一部上場企業の元人事担当者の見解をもとにご説明いたします。
どんな人にこのコラムを読んで欲しいか
- 勤務先企業を退職予定の人
- 就職活動中の人
退職代行サービスを利用するメリットとデメリット
メリット
当然、利用者が増加しているサービスですから、メリットが存在します。代行業者が謳っているのは次のような事項です。
- 勤め先企業との事務連絡のやり取りが不要
- 勤め先企業への出社が不要
- 年次有給休暇の100%消化が可能
- すぐに退職が可能
デメリット
安易に退職代行サービスを使うべきではないと考える理由は、下記3つのデメリットが存在するためです。中でも、1つ目の「円満に退職できない」が、最もクリティカルなデメリットだと言えます。詳細については、後段で解説していきます。
- 円満に退職できない
- コストパフォーマンスが悪い
- 代行が成立しないリスクがある
退職代行サービスとは何か
前提知識として、「退職代行サービスとは何か」をご説明しますので、すでに理解されている方はスキップしてください。
退職代行サービスとは、利用者(退職希望者)と、利用者の勤めている企業との間に立って、本来利用者が行うべき退職に関する一連の手続きを代行するサービスのことを指します。代行業者ごとにサービス内容は様々ですが、一般的には次のような手続きを利用者に代わって対応します。
- 勤め先への退職意思表明(退職届の提出)
- 退職手続き内容の確認
- 退職手続きに必要な書類の作成・作成補助
- 退職手続きに必要な書類の勤め先への提出
- 貸与備品の返却(社員証、PC、制服など)
メリットはいずれも成立しないリスクがある
冒頭で、退職代行サービスを利用するメリット・デメリットについてご説明いたしました。さて、本当にこれらのメリットを享受できるのでしょうか。またデメリットを踏まえた際に、どれだけのアドバンテージがあるのでしょうか。
結論を先に言いますと、前述のメリットは全て成立しない可能性を孕んでいます。その理由を説明するために、3つのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
円満に退職できない
サービス利用者にとって、最も痛いデメリットが「円満に退職できない」ことです。必ずと言っていいほど円満に退職できません。
前述の通り、退職代行サービスを利用することで、利用者は勤め先企業に一切連絡を取らずに退職することになります。この行為について、勤め先企業の上司・同僚、人事担当者の目線でどのように映るのか、どのような気持ちになるのか考えてみましょう。
目線 | どのように映るか | どのような気持ちになるか |
上司・同僚 |
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人事担当者 |
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このように、上司・同僚や人事担当者に非常に悪い印象を与えることになります。退職代行サービスを利用した人に対して、良い印象を抱くことはまずあり得ないと言えるでしょう。これが、「円満に退職できない」理由です。
円満退職できないと、どのような影響があるのか?
- これまで築いてきた信用・信頼を失い、OBとしての活動が制限される
- 勤め先企業が属する業界で悪い噂が立つ(転職先が同業界の場合や、転職先のクライアントが関係する業界だった場合には、転職先に噂が流れることもあり得る)
- 将来的に転職を繰り返す際のバックグラウンドチェック/リファレンスチェックにおいて、良い評価を貰うことができない
- 「退職」という会社人生の一つの節目を、良くない思い出にしてしまう(精神衛生上良くない)
コストパフォーマンスが悪い
退職代行サービスの利用料金は、3~5万円程度が相場ですが、コストパフォーマンスが悪いことが2つ目のデメリットです。
前述の通り、一般的なサービス内容は、①勤め先への退職意思表明(退職届の提出)、②退職手続き内容の確認、③退職手続きに必要な書類の作成・作成補助、④退職手続きに必要な書類の勤め先への提出、⑤貸与備品の返却(社員証、PC、制服など)の5つです。
この行為に3~5万円の価値があるでしょうか?元人事担当者の立場からすれば、無駄遣いとしか思えないのです。
退職者自身で行った場合、電話を一本入れるだけ、手続き内容の説明を聞くだけ、数枚の書類への記入(署名捺印レベル)を行うだけ、貸与物を返却(持参/郵送)するだけに過ぎません。
退職を経験したことのない人にとっては、分かりにくい部分かも知れませんが、そもそも退職の手続きというものは、難しいものではありません。数万円を払って、代行を依頼するほど煩雑な手続きは一切ないのです。
代行が成立しないリスクがある
「コストパフォーマンスが悪い」というデメリットを聞いて、「いやいや、事務作業の代行ではなく、メリットを享受するためにお金を払っているんだ」と考えた方がいらっしゃるのではないでしょうか。
しかしながら、そもそもこの代行が成立しないリスク(つまり、メリットを享受できないリスク)が存在することを、よくよくご理解いただきたいと思います。
そもそもこの退職代行サービスは、弁護士資格を持っていない企業が提供する場合には、単なる使者・連絡役としての力しか持ちません。そして、多くの退職代行業者が、弁護士資格を有していないため、単なる使者・連絡役であり、法律上の制約がかかることになります。
- 退職日、年次有給休暇消化の交渉
- 給与や退職金の交渉
- 未払い金の交渉
- 引継ぎの交渉
- 退職届などの公的書類の代理
つまり、退職代行業者が連絡をしたところで、本人確認できないことを理由に、勤め先企業の人事担当者が取り合わないことや、退職の申し出として受理しない可能性が大いにあるのです。あるいは、退職の申し出は受理したとしても、それ以降の手続きについては直接本人としか行わないというケースもあります。
そういった場合に、単なる使者・連絡役(弁護士資格を持っていない退職代行業者のサービス)であれば、何も代行することができないということです。
デメリットを踏まえたメリットのアドバンテージ
これらのデメリットを踏まえると、冒頭に紹介した「退職代行サービスを利用するメリット」として謳われている項目は、そもそも一つも成立しない可能性があることがご理解いただけると思います。
総合すると、メリットゼロのリスクあり、デメリットが存在ということになりますので、やはり、安易に退職代行サービスを利用することはお勧めできません。
デメリットを度外視して退職代行サービスを利用してもよいケース
さて、これまで退職代行サービスを安易に使うべきではないということをご説明してきましたが、例外となるケースがあります。
それは、勤め先がいわゆるブラック企業で、次のような状況に陥っているケースです。
- 未払い残業代が発生している。
- ハラスメントが横行しており、1日でも早く出勤をやめたい。
- 有給休暇等の労働者の権利を侵害される恐れがある。
このように適正で健全な状態にない企業に勤めている場合には、退職代行サービスを利用して一刻も早く自身の身を守ることが必要なケースがあると思います。なお、その際には、弁護士資格を有する退職代行業者に依頼するようにしましょう。
さいごに
このコラムをさいごまでお読みいただいたうえで、それでも退職代行サービスを利用したいという人は、弁護士資格を有する業者を選択することをお勧めいたします。